医療法人社団 心施会

はじめに

これまで通院で腎不全治療をなさっていた方にとって、透析導入は大きなライフイベントであり、生き方の転換点と言えます。

透析導入時は腎不全で通院していた病院へ入院、シャント手術や今後通う診療所探しと慌ただしい日々を過ごされ、仕事を中断せざるを得ない方もたくさんいらっしゃるかと思います。
また日々通院されている御本人だけでなく、御家族は特に「透析導入期」は分からないことだらけで、多くの不安を抱えていることでしょう。

その後「透析維持期」に移行され、生活リズムなど整ってきても、再びシャントのトラブル、骨折や心血管系イベント、感染症などの様々な合併症の発症などに悩まされる日々は続きます。

我々はそのような腎不全・透析でお悩みの患者様・御家族の方すべてに対し、真剣に向き合いその不安を取り除き、一つ一つより良い状態につなげていくことに全力を尽くしたいと考えております。

私共の知識と経験が少しでも皆様のお役に立てるように、テーマ別にまとめさせていただきました。
参考にしていただけると幸いです。

医療法人社団心施会 理事長 杉崎 健太郎

腎不全について

腎不全とは

I.腎不全

元来腎臓の働きは、尿を作って体の状態を保つことにあります。我々は毎日食べ物を食べたり、水分を摂ることで、体の中には老廃物が溜まります。これを浄化してくれるのが腎臓であります。
我々の腎臓の機能を示すのが、採血で得られる血清クレアチニン値(正常値は大体1未満、透析になる数値は大体8とされています。)であり、徐々に上昇していくと腎不全が進行してきたことを示しております。
クレアチニン(Cre)は筋肉から作られており、筋肉から出てきたクレアチニンは血液を介して腎臓に運ばれ、血液がろ過され尿中に排泄されます。

腎臓が悪くなってしまうと、ろ過される血液が減りますので、尿中への排泄が少なくなり、血液中にクレアチニンが溜まる(=クレアチニンが高くなる)ことになります。
腎臓は、尿を作り、体の中に溜まる毒素を捨て、様々なホルモンを調整しております。腎不全とは、これらの仕事ができなくなってくることです。
尿が出なくなるので、体がむくみます。また毒素が溜まるので、体調が悪くなります。血圧や 貧血、骨などに働くホルモンが作られなくなるので、血圧が高くなり、貧血が進み、骨がもろくなります。

腎臓が悪くなると…
どうなったら腎代替療法が必要か

腎不全(慢性腎臓病:CKD)の状態は、大きく分けて5段階に分かれており、正常のおおよそ15%(eGFR:腎機能の指標として用いられる)以下に低下した状態を慢性腎不全の末期状態(末期腎不全)といいます。
このころになると、体内には排泄できなくなった尿毒素や水分、あるいはカリウムなどが蓄積され、特に体がむくんだり、息苦しさを感じたり、食欲が低下するなど様々な症状(「尿毒症」といいます)を呈してきます。
慢性腎不全の原因は様々であり、経過は人それぞれですが、末期腎不全まで至った方は透析療法を含めた腎代替療法の適応となります。

次の治療(腎代替療法)

腎代替療法は大きく分けて、3つになります。
透析を含む腎代替療法は、大きく分けて血液透析・腹膜透析・腎移植に分けられます。それぞれ示す通り、メリットとデメリットがありますので、担当主治医から説明をきちんと受けて御自身・御家族の理解を深めるようにしましょう。

腎代替療法のまとめ
腎移植

腎移植は透析療法と異なり、他の方の腎臓を使わせていただく治療となります。腎臓を提供してくださる方のことをドナーと言います。健康な方(生体腎移植)であれ、お亡くなりになった方(死体腎移植)であれ、ドナーがなければ移植を行うことはできません。透析と異なり、腎臓を提供してくれる方の多大な協力が不可欠です。
移植は高度専門的な治療・全身麻酔などの大きな手術が必要であり、長期間のステロイドや免疫抑制剤の内服継続が必要でありますが、食事制限等が少なく、社会復帰なども容易であるといったメリットはあります。

血液透析
腹膜透析

治療の大半を通院先のクリニックにお任せする血液透析と異なり、腹膜透析は自ら行う透析です。腹膜とはお腹の中にある袋みたいなものです。この中にカテーテルと呼ばれる管を入れて、透析を行うことになります(手術が必要です)。通常ご自宅で患者様ご自身(あるいは家族)が治療を続けます。週6~7日、24時間の透析を行うのが基本になりますが、人それぞれ調整することが可能ですので、主治医との相談が必要です。また通院が月1~2回程度であり、これまで通院されていた透析導入施設に通うことになります。血液透析と比較すると、行っている施設が少ない点や御自身で行う必要がある、透析量としてはやや少ないなどのデメリットがありますが、社会復帰などはしやすい、通院が少なくて済む点などから、若年者や超高齢者などで選択されることがあります。

II.原疾患

末期腎不全により透析導入に至った患者数は、高齢化もあり増加傾向であります。現在約32万人(約400人に1人の割合)ほどいらっしゃいます。
平均年齢は67.5歳であり、新規導入患者様の中では、糖尿病性腎症が最も多く、次いで慢性糸球体腎炎、腎硬化症、多発性嚢胞腎と続いております。
このように様々な経過を辿られて末期腎不全に至ったと思われますが、透析開始された後も原疾患によって治療の継続が必要とされております。
代表的なものとしては、糖尿病となります。糖尿病は血管の病気であり、腎臓だけでなく、心臓や眼、神経など全身への影響がある病気です。透析導入後もこれらの治療は継続していく必要があります。

血液透析について

III.透析治療の流れ

当院・他院(地域中核病院など)で透析導入が必要と判断された患者様について、透析治療までの簡単な流れを示します。
血液透析は日本では最も多く患者様に選択されていて、腎不全に至った9割近くの方が行っております。血液透析の詳細は別項でお示ししますが、週3回、1回4時間の透析を行うのが基本になります。つまり週3回の通院が必要になり、例えば月・水・金曜日あるいは火・木・土曜日に午前あるいは午後(夜間)など(全身状態と通院先の病院によって、何時に通うかは多少異なります。)に通院し透析を行うことになります。

ここでは血液透析治療の流れを説明します。
ベッドに横になった状態(*椅子で行うこともありますが、ここでは一般的な説明をさせていただきます。)で針を2本刺します。片方から血液を取り出し、老廃物を取り除いた血液をもう片方から体に戻します。その際、血液を1分間150~250ml程の量を体外へ取り出します(同時に同量の血液を体内へ戻すため、心配は要りません。)ので、ある程度の血液が流れている血管が必要になります。皆さまの腕をご覧ください。
腕には2種類の血管があります。

表面からは見えない動脈(心臓から手先に向かう血管:右の図の赤)と、表面に見えている青すじだっている血管は全て静脈(心臓へ戻る血管:右の図の青)です。
元々静脈は採血や点滴などに用いられる血管でありますが、血液は透析に必要な量は流れていません。動脈には非常にたくさんの血液が流れていますが、表面からは見えませんので、針を刺すことは難しいです。そこで、これらを繋ぐことによって、静脈により多くの血液を流せるようにしたもの、これをシャント(またはバスキュラーアクセス)と言います。

そのため血液透析が必要な場合は、シャント作製の手術が必要となります。シャントを作製した後、少なくとも2週間程は傷の治り具合や血管の発達を見つつ、その後実際に穿刺開始(透析導入)となります。シャントを穿刺し、血液透析の回路(後述)に接続し、血液透析(循環)が始まります。

透析治療中は3~5時間(食生活、年齢や体格などにより異なる。)程、回路に繋がった状態です。その間は基本的に立って歩いたりすることはできませんが、ベッドでテレビを見たり、本を読んだり、ご飯を食べたり、あるいは昼寝などをして、ある程度自由な時間を過ごされています。透析治療中は、医師の診察、看護師や技師などが血圧測定や薬剤の投与、針の具合を確認するなどして、定期的にお声がけをします。また透析室のメインコンピューターでも全体の状態を速やかに表示確認し、皆さまが安心して治療を受けれる体制をとるようにしております。

なお機械側で異常が検知されるとブザーがなるような仕組みになっており、その際にもスタッフが速やかに駆けつけ、適切な対処をとっております。血液透析自体は急激に体調変化が起こることなどもあるため、皆さまの安全を守るためにスタッフは定期的に血圧測定などをしておりますので、どうか御協力ください。また高齢・糖尿病による動脈硬化の強い患者様などに対しては、フットケア(後述)等を行うこともあります。透析治療が終了に近づくと、透析治療の完了を示すブザーがなり、血液を完全に体内へ戻す段階となります。そして針を抜いて止血となります。

止血には大体の患者様で10分程です。血液が止まりにくい患者様や手足の麻痺などで自分で止血ができない方は、スタッフが全て行うようにしていますが、それ以外の方については基本的にご自身で止血をしていただくようにしております。これは災害時や緊急時などでも、御自身での止血操作に対応できるようにするために、常日頃から訓練も兼ねてお願いしております。止血終了後は待合室・更衣室などで帰宅の準備をされ、準備でき次第各自(送迎利用の方は定時便に間に合うように)ご帰宅となります。
十分に止血が確認された後に御帰宅となりますが、稀に穿刺(針を刺した)部位から出血することがあります。
かさぶたが何かの拍子に剥がれてしまったことが原因であることが多いです。

この場合も慌てずにガーゼやタオル等を用いて反対の手で軽く押さえ、横になって安静にしてください。止血バンドを用いても構いません。押さえている部位の脇から血が漏れてきていなければ十分です。
あまり強く押さえるとシャントが閉塞してしまうこともあります。その状態で30分程様子見たのちに、ゆっくりと出血部位を確認いただき、それでもまだ止血されていなければ、引き続き止血バンドをしたまま、当該クリニックへ電話あるいは夜間であれば当番の電話(当会に通院中の患者様に、配布済の患者カードに記載)にご連絡ください。

IV.透析導入~維持期

透析が始まったばかりの時期である「透析導入期」はまだ体内に老廃物(尿毒素)が多く溜まっている状態であり、透析によって急激にその毒素が抜けることによる「不均衡症候群」が起きやすい状態であります。急激に立ったり座ったりすることで立ちくらみを起こすことは誰でも経験したことがあると思います。それと同じように、人間は急な変化にとても弱いのです。そのため透析後に具合が悪い、血圧が下がる、頭の痛みが強いなど様々な症状を訴えられます。もちろん全ての症状が「不均衡症候群」によるものではないのですが、特に「透析導入期」にはよく見られる症状です。

この場合、一つの対策として透析を緩やかにすることが考えられます。急激に毒素を除去しないように、短時間・低透析量・頻回透析といった手段です。ただし通常は透析導入1-3か月程度(経験的には、長い方で1年弱程度。)でその状態は脱しますので、その後も症状が続くようであれば主治医の先生と相談するのが良いでしょう。

外来の透析クリニックに通院されるようになる頃は、「透析導入期~維持期」へ移行してきている時期ですが、患者様一人一人に合った透析療法を模索している時期にもなります。この時期は入院されている頃と異なり、塩分の多い食事や偏りがある食事が増えたりします。単純に食べ過ぎや体重の増えすぎなどで1回の透析で除去しなければならない毒素が多いだけのこともありますので、管理栄養士などに相談し水分や食事の摂り方のアドバイスをもらうのが良いと思います。また食事などを工夫してもデータが悪化するような状態であれば、尿毒素や水分と透析量とのバランスが取れなくなるために、透析量を増やす必要があります。
不安な点は主治医の先生や医療スタッフとも相談しつつ、より良い透析を受けれるようにしましょう。

V.血液透析の仕組み

血液透析に限らず、腹膜透析も含めた透析療法は、自己の腎臓で賄えなくなった水分や体に溜まった老廃物(尿毒素)を血液あるいは腹膜といった手段の違いはあれ、その働きを補うものとなります。体外へ血液循環させるためのバスキュラーアクセス(シャントや人工血管など)を介して、皆さまの体内を流れる血液の一部をポンプを用いて体外に循環させ、ダイアライザーを通過することで余分な水分や尿毒素を排泄し、清浄化した血液を戻すというのが血液透析という治療法になります。

血液透析(HD)のしくみ

まずダイアライザーについて簡単に説明させていただきます。
透析膜(ダイアライザー)を介して、血液と透析液の間で体にとって不要なもの(余分な水分や尿毒素物質)は透析液に、体にとって必要なもの(アルブミンやカルシウムなど)は体内に留めたり補充するように調節されております。
それぞれの物質の性質の違いを利用して、体内の清浄化を行っているのが透析の原理となります。

ダイアライザーのお仕事

ダイアライザーを簡易的に拡大すると図のようになります。血液の中には、様々な物質が含まれており、赤血球、アルブミン、電解質、尿毒素が含まれております。体にとって重要な赤血球やアルブミンは、透析液の中になるべく抜け出さないように調整しております。そして体にとって不要である尿毒素は透析膜を通過して、透析液へ抜けるようにされており、透析をすることで血液中の尿毒素を少なくしております。
また電解質の中にはナトリウム、カリウムやカルシウムなどが含まれており、これらは少なすぎて も多すぎても良くないので、透析液と行き来できるようにすることで至適濃度に調整されるようになっております。

なぜ、時間が重要か?

体に溜まった老廃物(尿毒素)を透析によって取り除くには、細胞⇒組織間液⇒血液⇒透析液と3段階あるので、時間がかかります。

透析量について

これらの除去効率の具体的な指標となるのが「透析量」と呼ばれるものです。
基本的には3つの指標から計算可能な数値であり、それぞれクリアランス(K:ダイアライザーによって異なる)、透析時間(t)、体格(体積:V)によってKt/Vという計算式で表されております。日々の採血で尿素窒素やβ2ミクログロブリンなどの尿毒素の除去が不良になっている場合は、透析が足りないと判断され、透析量を上げる必要が出てきます。

更にご自身の体に起こる変調として尿量が減ってくることが原因として挙げられます。残念ながら「透析」は腎臓の働きをサポートするだけであり、腎臓の機能低下を止める治療ではありません。
そのため透析開始後しばらくすると、ご自身の腎臓が働かなくなり、尿量が低下してきます。よって透析で代行しなければならない「透析量」を増やす必要があります。透析を始めてしばらく経った頃にダイアライザーの変更や透析条件の変更などをお話しされるのはこうした理由です。

透析時間の重要性

特に時間の延長などは生命予後にも良いと報告されており、個々の患者様に合わせた最適な治療を提案させていただいております。気になっていることがあれば、何でも主治医の先生にお聞きになってください。

VI.透析中の体の変化

皆さまの中には「透析前に血圧が高い」「透析後は血圧が下がってあんまり動けない」などを経験される方は多いと思います。透析は体に溜まっている水分や毒素を除去する治療であります。
「透析前」は体の中に余分な水分や毒素が溜まっている状態ですので、特に1週間の中で月曜日や火曜日は中2日空けとなり、体にとっては最も調子が悪い状態です。とは言っても「透析後の方が具合悪く、動けない」と感じる方もいらっしゃると思います。

腎不全が進行すると体内の水分や毒素が蓄積するために、血液透析によって溜まった老廃物を取り除き、体を良い状態(毒素が溜まっていない状態)にすることが必要です。
しかし腎臓と血液透析の最も異なる点は、腎臓が24時間休みなく働いているのに対し、血液透析は1週間に3日・1回あたり4時間(標準的)すなわち週当たり12時間と限られた時間しか働いていないことになります。
血液透析をしていない時間は水分や毒素が溜まっていく一方であり、長期的に毒素が溜まることによって命に関わるような合併症(尿毒症、透析困難症や透析アミロイドーシスなど)に繋がります。
したがって透析をしていない間の自己管理が極めて重要になります。
特に週末に蓄積した水分や毒素などの老廃物が多くなるほど、つまり自己管理ができていないほど、透析によって除去しなければならない量が増えますので、透析後に体調が悪くなるといった症状が現れます。

人間は誰しも急激な変化に弱いものであり、「透析後に体調が悪くなる」=「透析間の自己管理が悪くなっている」可能性を示しており、「透析が悪い」のではありません。
但し「体に合わない透析」の可能性もあるので、透析の方法(透析時間の変更やダイアライザーの変更など)も工夫する必要はあるかと思います。

次にご理解いただきたいのはドライウェイト(DW)という概念です。

DWは本来「体にとって最適な体重」であり、一般的には胸部レントゲンで心臓の大きさを測定し、透析中の血圧の変動などを鑑みた上で設定される仮の体重であります。
この仮の体重を目標として、透析によって除水を行います。しかし真の体重は毎日の食事や運動量などから日々変動していきます。そのため、真の体重は低下しているのに、DWをそのままにしていると水分が過剰に蓄積するために、心不全の原因ともなります。
そのため一般的には月に1回程度適正なDWの見直しを行っております。
より良い透析ライフを送るためには自己管理が最も重要であり、体に合った透析をしっかり受けていくことで合併症などの発生を抑えていくことが大事です。

VII.長期的な合併症

透析療法が始まった時代には、「今日を無事に生きる」ことが目標でした。
しかし現在は約30%以上の患者様が10年以上の透析を受けられています。
皆さんの先輩になる長期透析患者さんたちが経験してきたことから、我々に様々な知識を与えてくれています。
しかし残念ながら透析期間が長くなるほど年齢も上がりますので、合併症は増えていきます。
良い自己管理と共により良い透析を受けることで、将来的にこれらの合併症を減らすことができることが分かってきましたので、しっかりとした透析を受けることが重要となります。

合併症の主なものとしては、「心不全」「感染症」「脳卒中」「低血圧症(透析困難症)」「骨・関節障害」などです。
生命に関わる問題として、最たるものは「心不全」と「感染症」でそれぞれ約25%(透析患者様の4人に1人の割合)とされています。
「心不全」は「脳卒中」「心筋梗塞」と合わせて約30-40%程であり、これらは動脈硬化性の病態が多く、糖尿病や高血圧といった生活習慣病を基礎疾患とする患者さんや高齢者の方々の増加によるとされます。
また尿量が徐々に減少し無尿になるために、透析療法によって除水(体重の管理)するしかないことで、透析の前後で体重が概ね1.5-3kg程度(例えば体重50-60kg程度の方。DWの3%以内(中1日の場合)、DWの5%以内(中2日の場合、週明けなど。)が望ましいとされています。)変化します。
そのため急激に体内の水分量が変化するために常に心臓・血管系へはある程度の負担がかかることになります。
この負担を減らすには、透析間の体重増加をできるだけ少なくすることと、透析中の除水速度を緩やかにすること(つまり透析時間を短くするのではなく、少し長めにすること)が必要となります。
またリンなどの尿毒症物質のコントロールが悪いと動脈硬化の誘因にもなっていることが知られています。リンの治療には食生活・排便習慣の改善とともに、薬物療法・透析療法の強化が主体となります。

VIII.透析の種類

一口に血液透析と言っても、種類はたくさんあります。我々の施設で行っているのは、通常の血液透析(HD)に加え、より低分子尿毒素物質の除去効率に優れる血液透析濾過(オフラインあるいはオンラインHDF)や血液透析と平行して行う間歇的血液透析濾過(IHDF)、透析アミロイドーシスの患者様に適応となるリクセルを用いた血液吸着療法(DHP)、必ずしも腎不全ではないが潰瘍性大腸炎などの患者様に適応となる白血球・顆粒球除去療法(GCAP・LCAP)などの特殊血液浄化療法なども手掛けさせていただいております。このように腎不全だけでなく、様々な疾患に対しても透析療法は応用されております。
それぞれについてはスライドで簡単に図示させていただきました。

血液透析(HD)のしくみ
血液透析濾過(HDF)Off-lineのしくみ
血液透析濾過(HDF)On-lineのしくみ
血液吸着療法(DHP)のしくみ

シャントについて

IX.バスキュラーアクセスとは

透析を行うためには十分な血液量が必要となります。
透析はおおよそ1分間当たり150~250ml程度の血液を体外へ運びだし、老廃物を除去し正常化することを行っております。
十分な血液を循環させ治療するためには、良いバスキュラーアクセス(シャントなど)が必要となります。

バスキュラーアクセスには、シャント(動脈と静脈を吻合したもの)、人工血管(グラフト)、動脈表在化、テシオカテーテルなどが挙げられます。
いずれも透析に必要な血液量が確保できるように工夫され、それぞれ特徴を有していますが、一般的にはシャントが用いられています。
動脈と静脈を吻合することによって、動脈を流れる血流の一部が静脈に流れこみ、静脈(シャント)の血流量が増加するために透析に必要な血流量が確保できるようになります。
しかしシャントは長い期間を経ることで蛇行し、静脈に元々存在する弁と呼ばれる門によって乱流が生じたり、また何度も穿刺を受けることによって狭窄を引き起こすことによって、透析ができなくなるなどのトラブルが発生してきます。
それを「シャントトラブル」と呼びます。

以前は「シャントトラブル」=「シャント閉塞」であり、一両日中に緊急手術が必要になっていました。
しかし透析患者様全てにとって「シャントトラブル」を減らし、良い透析を維持することは最も重要な課題の一つであり、当グループでは日頃から皆さまのシャントをチェックする体制を整えています。
具体的には、1~3ヶ月毎にスタッフによるシャントチェック(シャントスコアリングシートの活用)⇒医師による診察⇒必要に応じて超音波検査⇒造影検査⇒治療(バルーン拡張術(PTA)や手術)という体制を作っております。
そうすることで、できるだけ治療のための入院等が必要になる前に対応するようにしています。

入院は特に御高齢の患者様にとっては体力・筋力が極端に落ちるため、必要最低限であるべきと考えております。ある研究によると、2週間の入院によって筋力は約1.5kg落ちるとされています。
これはサルコペニアやPEWにつながるとされており、現在ではその対策が重要視されております。
患者様御本人にも、手で触れることや聴診器などを用いて音を確認するなど常日頃からシャントを気にしていただくようにすることで、より良いシャント維持をすることができます。

シャントスコアリングシートの活用

シャントトラブルスコアリングシートの一例をお示しします。当院では定期的にスタッフが患者様のシャントの状態を評価し、異常がないかを速やかに明らかにするようにしております。この例のように1~3か月毎にスコア化することで、シャントの状態をスタッフ全員が共通した認識を持つようにしております。そして、経過中 にシャントトラブルが起きた際に速やかに治療(PTAあるいは手術)に繋げられるようにしております。

経皮的血管内バルーン拡張(PTA)

「バルーン拡張術(PTA)」とは、シャントで問題となっている部分(狭い部位)を血管内から風船で膨らませる治療であります。
シャントは一度作成したら、生涯問題なく使用できるわけではありません。
シャントは元々体内にない血管で、一度作成したら多くの血液が流れ込んできますので、川の流れと同じように少しずつ変化してきます。
具体的には蛇行するようになります。

シャントの発達

また同時に、透析の度に同一部位を穿刺し続けるとその血管は痛み、狭窄などの原因になることが多くあります。

シャント狭窄のメカニズム

狭窄が出現すると、しばしば透析中に問題となる脱血不良やシャント腫脹・疼痛など様々な原因となります。
そのためにPTAによって定期的にメンテナンスをすることが必要となる場合があります。
当グループでは以前よりこの治療を導入したことで、緊急手術となる患者様の数は激減しました。

方法としては、放射線を用いて行うものと超音波を用いて行うものと2通りあります。

左の写真はPTA前の造影検査の写真です。黒く写っているのが、シャントになります。真ん中の写真では、狭い部分に対し、バルーン(風船)を膨らませて、血管を広げています。右の写真はPTA後の造影検査の写真です。

放射線を用いる場合は「手技が容易であり、再現性に優れ、治療中の血管破裂などのリスクが少ない」「シャント全体の評価が容易」などのメリットはありますが、「造影剤を使用するために、喘息などのアレルギーがある患者様には使用ができない」「放射線による被ばくの恐れ」があるなどのデメリットがあります。
放射線による被ばくは「放射線を使用する時間をできるだけ短くする」「放射線を使用する範囲を小さくする」「防護具を付ける」などによって、被ばく量を減らすようにしています。

超音波を用いる場合は「放射線被ばくがない」「アレルギーのある患者様にも使用できる」などのメリットはありますが、「手技が難しく、再現性が得られにくいために治療評価が難しい(=患者様も理解しにくい)」「出血など合併症に対応するのが遅れる可能性がある」「鎖骨下などの中心静脈の評価ができない」などのデメリットがあります。

それぞれ一長一短ですので、それぞれの状況に応じて対応することとしています。
但しPTAには限界もあり、PTAを施行しても3か月間保てない場合、血管の石灰化が原因である場合、コブが原因で過剰に血流が流れている場合、動脈の問題、患者様の通院が困難な場合などです。
これらの場合も状況に応じて、適切に対応させていただきます。

良いバスキュラーアクセスとは「透析に十分な血液量が確保でき、かつ心臓への負担の少ない血管」です。
シャントが過剰に発達する(肥大する等)と、透析中に問題が起きなくても心臓への負担が大きくなる場合もあります。
その場合は心臓への負担を軽減するために、PTAではなく手術(シャント再建=作り直す)をお勧めすることもあります。
その状態に応じて適切に判断する必要がありますので、主治医の先生とよく相談するようにしましょう。

フットケアへの取り組み

X.フットケア

動脈硬化(血管石灰化)は人間誰しもが加齢とともに進行するものです。
以前より高血圧・高脂血症・糖尿病・喫煙や肥満などがそのリスクとなることが知られています。
中でも透析患者さんの動脈硬化は導入時にすでに完成された状態であることが近年分かってまいりました。
透析が動脈硬化を進展させるとは必ずしも言えず、十分な透析がその病態を改善する可能性も示唆されています。
いずれにせよ、透析を受けている患者さんは、動脈硬化による末梢動脈疾患(PAD)が多く、特に足にその石灰化病変が多くなることが特徴です。
そのため、血液の流れが悪く、「足先が痺れる」「冷たい」「色が悪い」「歩くと足が痛くなる」などの症状が現れてきます。
ひどくなると、「傷が治らない」「安静にしていても痛い」などの症状が見られ、放置しておくと最悪の場合、「足を切断する」などの侵襲的な治療に至らざるを得ません。
当然足が悪くなると歩けなくなりますので、日常生活は制限され益々活動できなくなってしまいます。こうした状態に至ることを防ぐのが、「フットケア」です。

フットケアで行うことは、①医療スタッフによる定期的な「足の状態観察(フットアセスメント)」と②PADの早期発見を目的とした「検査(足関節での血圧測定:ABIや毛細血管での血液の流れの測定:SPP)」、特に問題になりやすい③「爪や皮膚の状態に対する対処(爪切りや軟膏塗布)」、④重症化に至る前が望ましい「専門的な治療(血管内治療やバイパス手術)」と大きく分けられます。
我々の施設で行っているのは、主に①と②、一部③となります。④については定期的なフットアセスメントや検査によって早期の段階で診断し、専門施設である病院での治療をお願いしております。

以下に当院で行っているフットケアの一部をご紹介させていただきます。

フットアセスメント

足の観察はフットケアの基本になります。
そこから、循環不全(血液の流れが悪い)、神経障害(しびれや冷感、痛み)、歩行動作・日常生活習慣などを把握することができます。
しびれや冷感などの自覚症状から始まり、皮膚は足全体から趾の間まで、爪は皮膚と爪の接触部まで、足の色調・変形なども含めて観察ポイントがたくさんあります。
また、糖尿病の患者様は特に神経障害により足の感覚が鈍くなり、傷や異常が判りにくくなり、早期発見が難しくなります。
フットアセスメントを定期的、継続的にオリジナルのフットチェックシートで行っています。
足を触って、見て、皮膚の状態、傷の有無、程度、血行障害、知覚障害の早期発見を行っています。
観察する中で、爪(爪白癬・肥厚爪・陥入爪)・踵の割れ・肥厚で、どのように自分で切ったら良いかわからない方、高齢の方や体の不自由な方など、ご自分で手入れできない方へアドバイスやお手入れも、行っています。
また、胼胝(べんち、たこ)や鶏眼(けいがん、うおのめ)、白癬で、お困りの方のお手入れも行っております。

血行障害には、ABI(足関節上腕血圧比)検査やSPP検査(後述)なども行います。
「フットケア」の第1歩は「自分の足への意識を高める」ことです。しっかり観察し些細なことと思う異常でも放置せずすぐに透析スタッフに伝えて下さい。
フットケアを通して、いつまでも自分の足で歩き、QOL(生活の質)の低下を防いで、過ごせるように行っています。

ABI(足関節上腕血圧比)やSPP(皮膚組織灌流圧)

定期的な検査として、足関節と上腕(二の腕)血圧比を示したABIという検査を行っております。
血流が悪くなりますと、血圧は低下しますので特に足への血流低下が進むとABIは低下いたします。
ABIの値が0.9未満であると、足のPAD(末梢動脈疾患)の可能性があります。
しかし透析患者さんのように動脈硬化が進んでいると、血流が低下していても血圧は低下しないので、ABIで通常より高い値(1.3以上)をとることがあります。
簡便で痛みのない検査ですが、透析患者さんでは動脈硬化が一般人に比べて強いので、ABIだけでは必ずしも血流低下を調べることは難しくなります。
そこでSPPという検査があります。
SPPは毛細血管レベルでの血流を評価するものです。
ABIと似ている検査ですが、近年PADの診断にABIよりも優れていることが示されており、SPP 40mmHg以下では血流低下があることを示します。

腎臓リハビリテーションについて

XI.腎臓リハビリテーション

透析を受けている患者さんだけでなく、全ての人は加齢や病気に伴って、身体機能や筋力の低下が起こることが知られています。 なかでも骨や関節、筋肉に何らかの支障をきたして運動障害が引き起こされ、日常生活が困難になり、悪化すると要介護・寝たきりの状態に至る現象をロコモティブシンドロームと言い、とくに筋肉量の減少をサルコペニアと言います。 健常な状態とロコモティブシンドロームの間の状態をフレイルと呼びます。

腎臓リハビリテーションとは、腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善することを目的として、運動療法・食事療法・水分管理・薬物療法・教育サポートなどを行うことです。
中核である運動療法については、透析患者さんに対して運動耐用能改善(疲れにくい体を作る)、サルコペニアやフレイルの改善、蛋白質異化抑制、QOL改善などをもたらすことが明らかにされています。
とは言っても全ての透析患者さんに同じように行うことはできません。
それぞれの方によって、身体の状態が異なるからです。
心臓の病気などをお持ちの場合などは運動療法は禁忌(やってはいけない)となりますので、どの程度の運動(活動)をしていいかは主治医への相談が必要になります。
透析患者さんに対する運動療法の標準的メニューは原則として、非透析日に週3~5回、1回当たり20~60分の歩行やエルゴメータなどの中程度(心拍数の1/10)あるいはボルグスケール(主観的な感覚)で11(心拍数で110回/分、あるいは「楽と感じる」)~13(心拍数で130回/分、あるいはややきついと感じる)での有酸素運動が中心となります。
通常は運動施設あるいは自宅で行うことになります。

透析中に運動を行うと蛋白同化(体にとっては筋力が作られ、良い方向)が促進され、またリンなどの老廃物の透析除去効率が高まり、透析時間を1時間延ばしたのと同じ程度の効果が得られるとされています。
それでも透析中は血圧が下がりやすく、なかなか継続できない方もいらっしゃいます。そこで当院では透析開始前に希望者へラジオ体操への参加を勧めております。

また当院施設への通院前段階(見学時など)に各患者さんに歩行や起立運動などの基礎的運動能力を簡易的に問診などで把握し、御自身にとって最も良いと思われるサポートを取らせていただくようにしております。
私共は「良いサポート」とは「送迎から透析まで、全て病院にお任せ」というわけではなく、「寝たきりにならないよう生活の自立を促す」ことと考えております。
透析はライフスタイルの大きな変化を伴いますが、新たな生活の始まりでもあります。
私たちはそのサポートをさせていただきたいと思います。透析を行いつつ、仕事や日々の生活を送られている方もたくさんいらっしゃいます。
透析中は週3回、1回当たり4時間程度であり、生活の大半は自宅で過ごされるため、自宅でより充実した生活を送っていただきたいと願っております。
そのため特に当グループ内の患者さんには、なるべく普段から何らかの運動や少しでも歩くようにお願いしております。当グループでは送迎のサポート(別ページ)と共に、当グループ別施設ではリハビリテーションや介護サービス(別ページ)など幅広く行わせていただいておりますが、これらは全て各患者様の「最良の利益・有益」を実現するためのものであり、自ら動こうと(運動)する気力がないと効果は中々出ません。
心臓疾患などの身体状態が悪いと運動はできませんが、主治医などと相談しつつ自らの身体の状態を理解して積極的に運動などを取り入れていきましょう。

医療施設
  • 府中腎クリニック
  • 南大沢パオレ腎クリニック
  • 八王子東町クリニック
  • 平山城址腎クリニック
  • 独立行政法人国立病院機構 災害医療センター
  • 東京医科大学八王子医療センター

府中腎クリニックは、独立行政法人国立病院機構 災害医療センターの教育関連施設に認定されています。
八王子東町クリニックは、東京医科大学八王子医療センターの教育関連施設に認定されています。

介護・福祉施設
  • 介護老人保健施設 高幡みさわの杜
  • 日野市地域包括支援センター もぐさ
  • 居宅介護支援事業所 ふれんど